001 クレヨン

        

生徒会室は生徒会七人全員が揃っても余裕があるぐらいには広いが、中身は混沌としていた。
前生徒会の遺物が残っているせいでもある。
少なくとも、フランス人形とマトリョーシカと和風人形とアリスの人形が置いてある生徒会なんて
日本全国を探してもここぐらいのはずだ。
人形は四体とも生徒会室の真ん中に置かれている木製のテーブルの上に置かれていた。
横にしたクロッキー帳に何種類もの鉛筆を使い、超高速で人形達を描き込んでいたのは
生徒会副会長である楼蘭石榴だ。彼は美術部の部長でもある。

「……速いな」

側で言ったのは生徒会書記兼文芸部の部長でもある村神時人だ。お互いに中学三年である。
残りの五人が居ないため生徒会室は石榴と村神の二人だけである。
村神はハードカバーの本を読んでいたのだが、今は読むのを止めていた。

「クロッキー帳で書いてるから、画用紙で書くと遅めにしてる」

「分けているのか」

「少しは」

話ながらも石榴の手は正確な模写を続けている。
十三歳の時に有名な賞を取った石榴はその後も数々の絵画の賞を取っている。
この学院の有名人の一人ではあるが、原因不明で賞を取った絵が一枚壊されたという事件があった。
学院に飾ろうとしていた絵であったために教師達の落胆は大きいものであり、
絵の破壊の仕方が徹底的であったがために、石榴の名が有名になった事件だった。
村神はそのことを記憶から出しながらも、思い起こすことを止めた。
石榴の手が止まり、鉛筆が机の上に置かれた。テーブルの上に置かれた人形達を鉛筆画で加工してそのまま
クロッキー帳に映したかのような絵が描かれていた。

「上手いな。今にも動き出しそうだ」

「動くなら人形達の方じゃないのか?」

「……楼蘭……人形には霊は着いていないぞ。どれも、単に不気味なだけだ」

「視える奴が言うならそうなんだろう……スケッチに飽きた」

村神は霊感が強い。感情のない声で言うと石榴は笑った。飽きたというと先ほど描いた絵を
クロッキー帳から千切り、手で丸めると燃えるゴミ箱の中に捨てる。気に入ったとか気に入らないとかではなく、
単に飽きたのだ。

「暇そうだな」

「生徒会って全員が揃うのが遅すぎだろ」

「毎度のことだ……暇なら絵でも描いていろ。小早川がここを整頓していたらおもしろいものを見つけた」

七人全員が揃う方が珍しいぐらいにそれぞれが忙しい。村神は立ち上がると棚の一つを開けた。
会計である小早川眞弓が生徒会室を整頓していた時に見つけたものを引っ張り出すと人形達の側に置く。

「二十五色のクレヨン……何であるの?」

「知るか。使ってみたらどうだ。画用紙もある……クレヨンを幼稚と想っているなら別だが」

「クレヨンは立派な画材だよ。人形……一つ選んで」

「フランス人形にしておこう」

石榴は大抵の画材で絵を描けた。クレヨンを渡すと石榴は開ける。ほぼ新品状態だ。
何のために生徒会にあるのか解らない。適当に村神が人形を選びながら画用紙を渡す。
渡した後で村神は自分の席に戻ると、ハードカバーの本を読むことに戻る。
石榴はなめらかな木のテーブルの上に画用紙を置くとフランス人形を見つめた。
濃いピンク色のドレスを着たガラスケースに入っているフランス人形は石榴が自分を描くことを
待っているようだった。
派手な帽子に濃い茶色い髪の縦ロールの人形を石榴は描き出す。この間に会話は全くない。

「遅くなって……楼蘭くんと村神くんが先にいるなんて」

「珍しいわね」

一時間以上が経過した後で生徒会室に入ってきたのは会計の一人である天枷義王と書記の一人である
七萩せつらだ。
この生徒会は生徒会長以外の役職は二人ずつ居る。義王は剣道部の部長であり、
剣道の腕前はかなりのものだ。
せつらは手芸部の部長であり、せつらという名前であるが女であり、身長が百七十センチある。
彼女にとってはコンプレックスだ。

「後は小早川と……会長と副会長か」

「……そろそろ来るだろう」

石榴はクレヨン画を丁度終えていた。村神はハードカバーの本ではなく文庫本を読んでいる。
ハードカバーの本は読み切ってしまったのだ。

「上手いわね。飾っておけば」

「でも何か暖かみがあるように見えて呪われそうな」

義王とせつらが絵に感想を言う。
クレヨン画はリアルさもあったが石榴のアレンジが加えられていた。ドレスはピンクだけでなく赤など何色も
塗り重ねられている。フランス人形は呪いというイメージが何処かにあったのかせつらは不穏なことを呟く。
石榴も似たようなことを言っていたが。

「フランス人形には霊は憑いていないって言ってたよ村神が」

「……嫌……」

村神は文庫本から視線を石榴達に向けた。抑揚のない声で告げる。

「お前の怨念がこもっていそうだぞ。それ」

「怨念で描かなかったから……絵は気持ちがこもるものだし、怨念とか言うなって」

石榴が村神の頭をクロッキー帳ではたいた。村神が少しだけ笑う。笑みを見たせつらが気付いた。

「村神の冗談よ。きっと」

「わかりにくい冗談ですね」

義王が苦笑した。せつらが頷いている。
石榴は絵に黒いクレヨンでローマ字で自分の名を右隅にサインをした。
村神が生徒会室の扉の方に目をやる。
三人分の気配、ようやく生徒会の面子が揃いそうだった。


【Fin】


石榴はこういう奴です。久しぶりに書いたが気まぐれというか何というか。
オリジナルって言うか厳密に言うとテニスの王子様の生徒会の面子なんだけどねルドルフの