「望。遊びに来たよー!!」
「姉ちゃん」
天知天文研究所、天知望に元気に呼びかけたのは従姉であるだった。
普段は校外にある女子校の寮で生活をしているであるが、週末になると寮から出て天知天文研究所へと来る。
が通っている女子校は厳しく、原則全寮制で一度入学すると満足に外出もさせて貰えない上に情報も隔離されている。
父親が教養をつけて欲しいとを女子校に入れたのだが、としては窮屈なだけだった。
息抜きのためには天知研究所のことを出して、叔父が研究に没頭していて従弟が放置されたりもしていると、嘘の中に
多少の本当を混ぜ、言い訳をして外出許可を得ているのだ。
は女子校の制服のままだ。
「だ。元気?」
「アラタ、私は元気だよ。二日ぐらいは自由でいられるし」
アラタは天知天文研究所で住み込みのバイトをしている青年だ。が学校から出られなかった間に天知天文研究所は、
五人も住み込みのバイトを雇っていた。部屋には望とアラタが居た。
日曜日の夕方には学校に帰らなければならないが、二日は好きに使えた。
「おかえりー!」
「エリ」
ピンク色の服を着たアラタの幼なじみ、エリが部屋に入ってくる。を見ると抱きついた。
にとって、二人はとても話しやすい。
「制服、可愛いよね」
「世間じゃ、お嬢様学校とかで人気があるらしいけど……こっちとしては監獄だよ。着替えてくるね。顔出しに来ただけだし」
はエリから離れると、部屋を出て、研究所で借りている部屋へと行く。
部屋は簡素で着るための服が入っている衣装ケースやテーブルや椅子ぐらいしかない。は制服をハンガーにかけると、
衣装ケースから服を出して着替えた。
着替えて再び部屋に行こうとすると濃い青色の上着を着た青年と出会った。
「、来ていたのか」
「ハイドさん、二日ほどここで過ごすから」
「休みが取れたんだな」
ハイドには話す。が部屋に入るとアラタとエリがくつろいでいた。望は算数のドリルをテーブルに広げて解いている。
「モネとアグリさんは」
「あの二人は鍛錬って言って朝から出かけてるんだ。帰ってこなかったし」
「二人なら何処でもご飯とか調達出来そうだよね。ランディ……」
「姉ちゃん、夕ご飯、作ってくれるんだよね!」
モネとアグリは兄妹だ。
エリが何かを言いかけたが望が大きな声で制した。は深くは聞かずに望に夕ご飯について聞かれたので頷く。
「叔父さんは二日程帰ってこないから、研究会に行くって」
「父さん……聞いてないよ」
は研究所に行く道の途中で叔父である天知秀一郎と出会い、留守にすることを聞いた。
研究所の主である秀一郎は天文学者でたまに学会や研究会などで研究所を留守にする。そんな時はが許可を学校から
もぎ取り、望の面倒を見ていた。
「夕飯と言えば、今日の買い物の担当はアラタとエリとのはずだが」
「忘れてたっ」
「今から買いに行こう!」
ハイドに言われて想い出したのかアラタは部屋に置いてあるエコバッグを手に取り、エリも財布を持った。
「私もお金は預かってるから……手間がかかるなら外食とかでも」
「外食は駄目だ。安いところもあるようだが食べて行くと知らない間に金が減っている。冷蔵庫の中身を確かめてから、
食材を買うぞ!」
一食分ぐらいなら外食でも良いのではないかとは提案するがハイドは外食よりも内食が好みのようだ。
冷蔵庫をチェックしにハイドはキッチンへと向かう。
「……私も細かい方かなとか想ってたけどハイドさんはかなり細かいよね」
「ハイドだから!」
聞くところに寄ればハイドは少しでも安く、地球に良い物を買うためにスーパーの梯子も厭わない。
も細かい方ではあったが、ハイドはそれ以上に細かい。アラタは元気よく言い切っていた。
買い物のために外に出ると、鍛錬が終わったらしいアグリとモネとも逢い、全員で買い出しに出かけた。
ハイドとが食材や生活用品担当となり、他の五人は思い思いに過ごすことになった。
これはハイドが細かいとアグリが言いだしてまとまりきらなかったからである。
「金は必要分しか渡していないから無駄遣いは出来ないはずだ」
「お母さんみたい……ハイドさんって」
「……母……」
が言うとハイドが固まった。二人はスーパーでまず食材を買い始める。
『タイムサービスが始まります。椎茸が積め放題で……』
「二人で詰めましょう」
「ぎりぎりまで詰めるか……」
細かいところがあるハイドではあるがとは気が合う方だ。生の椎茸積め放題に出かけたり、保存が利く食べ物や
菓子なども購入していき、エコバッグに入れる。待ち合わせ場所を決めておいたので、時間になる前に集合するだけだ。
は携帯電話を所持しているが、アラタ達は持っていない。
「アラタが言いかけていたテンソウって……」
「……アイツの発言は気にするな……台所用の洗剤がきれかけているからドラッグストアで買おう」
ハイドが言葉を濁す。
天文研究所にバイトに来た五人は何かの隠し事があるようだった。望も隠し事については知っているらしいが、は聞かない。
聞かれたところで誤魔化されるからだ。
学園内は外界から隔離されているようなものなのでこうやって学園の外に出なければ情報が入ってこないが、
どうも、世界に何かが起きているらしい。
ドラッグストアに行き、地球に優しい洗剤を買う。
「エコって何を信じて良いのか……エコバッグは本当は環境に良くないとかの説もあるとかで」
「確かに地球は情報が錯綜しやすいからこそ、正しい情報を選んでいかなければならないな」
(地球って……規模が大きい)
ハイドの発言については触れずに二人でドラッグストアを出て、待ち合わせの場所へと行く。
五分ほど前に着いた。
「!」
「アグリさん」
「買うだけ買ってるな。無駄遣いはしないんじゃなかったのか」
「必要なものを必要なだけ買っている」
黒い上着を着た茶髪の青年がとハイドの元に来る。彼がアグリだ。後ろからはアラタとエリと望、黄色い服を着た少女が
追いついてきた。
「お兄ちゃん、先に行かないでよ。買い物、お疲れ様、。ハイドとの買い物は大変だったでしょ?」
「モネ。そんなに大変でも無かったけどね」
「さっさと帰って飯にするか」
「お腹すいちゃったしね」
黄色い服を着た少女はモネ、アグリの妹だ。アグリとモネの兄妹は熱血だ。
アラタとエリと望も来た。が持っている荷物をアグリが持ってくれて、全員で帰る。行きの道とは違うコースを選んだ。
「DVDレンタル……?」
「望。叔父さんが暇ならDVDかビデオを借りても良いって言ってたけど、どうする?」
アラタがのぼり旗に目を止める。
何本も立っていたのはDVDレンタルや会員募集のぼり旗だ。近くにあるのは一階が本屋で二階がレンタルDVD店の店だ。
が秀一郎から言われたことを想い出す。
「レンタルDVDって朝にやってる韓国ドラマとかも置いてあるんだよね」
「あるけど……」
「見に行きたい。行こう!」
「エリ、途中から見たから話が分からないって言ってたっけ……」
エリが店に入る。
朝に韓国ドラマがしていることはは話には聞いていた。その時間はは学校で勉強中である。アラタが呟いた。
「カードがないと借りられないんだけど……」
「持ってるの?カード」
「ここの店のなら」
「エリばっかりズルい!アタシも借りる!!」
───────モネ、エリが借りても良いとは誰も言っていないような。
は心の中で想うがモネも店に入る。男性陣と、望が残された。
「……姉ちゃん……ボク達も入ろう……」
「店の前に居ると迷惑だしね……」
「モネの奴」
「下が本屋か……」
「入ろう!」
残された五人も入る。中の本屋は広々としていた。文具のスペースが広めに取られているが、雑誌やコミックスのスペースも広い。
百円を入れたらしばらく使えるパソコンやコピー機も置いてある。階段があったので上る。
二階はレンタルCDと、レンタルDVD、レンタルビデオが置かれていた。
「五枚で千円だから……」
「、私はこれだけ借りたい」
計算をしようとするとエリが三枚のDVDを持ってきた。見ていない分の放映されている韓国ドラマであるらしい。
「エリ。借りすぎだ。五枚で千円とは言え……」
「アタシはこれとこれとこれ」
ハイドがエリを怒ろうとするとモネが借りるDVDを三枚持っていた。
世界的に有名な映画俳優のカンフー映画やアクション物のDVDである。もタイトルだけは知っていた。
「十枚借りれば守礼門一枚で収まる」
「……守礼門?」
「そう言うお札があるんだ。出回りづらいが」
エリとモネは見たい分だけ借りていた。は秀一郎から預かってた資金を出す。
守礼門は沖縄にある首里城の門のことだ。アグリの問いにハイドが答える。
二千円札のことだが二千円札は他の札と違って見かけづらい。も貰った時はあったんだ……と言う気持ちになった。
「残り四枚だけど、五人だから……グーバーで別れて別れたグルーブで相談して決めようよ。二枚ずつだよ」
「二枚ずつか……」
「話が進んでいるぞ」
「諦めようよ。ハイド」
アラタが残りの配分を決めてしまう。アグリは乗り気だ。ハイドが止めようとするが望は諦めていた。
黄色い篭があったのでエリはDVDを中に入れる。モネも入れるとに渡した。
「下の本屋さんに行ってて、時間がかかるかも知れないけど」
「速めにしてよ」
「待ってるね」
エリとモネが階段を下りていく。もグーパーに参加した。その結果、
「……アクションはモネが借りてるし……、これは面白いのか?」
「噂を聞いたらオチが酷すぎたとかで」
「世界の海のDVDか……」
、アグリ、ハイドとアラタと望に別れた。三人がパーを出して、二人がグーを出したのだ。
アラタと望はアニメのDVDコーナーにいる。少し前まではレンタルビデオの方がメインであったのだが、場所が嵩張らない、
画像が劣化しないなどの理由で今ではDVDがメインだ。アグリは適当なDVDを手に取っている。
「ホラーDVDとかは?コレなんて怖いって」
「パッケージからして暗い。シケた話なんて見たくないんだが」
「怖いのか?」
「……怖くない。これを借りるぞ」
和風ホラーをは手に取る。アグリは戻そうとしたがハイドに挑発されて、篭に入れた。
「残りの一本は……」
「は借りたいものは無いのか?」
「あんまり、寮でDVD鑑賞会とかたまにこっそりとやるから……」
「それならこれを借りたい」
ハイドが出してきたのは世界の海のDVDだ。七つの海の水中をハイビジョンカメラで撮影してあるとハイドが言う。
「……つまらねーだろ。が選ぶべきだろ」
「つまらないとか言うな」
アグリに一蹴される。ハイドとしては何回も海を眺めていても良いようだ。
は動物の映画のDVDを手に取る。無難なものにしておいた。
「これにするね」
「選び終わったなら、アラタ達と合流するぞ」
「……きっと、面白いはずだから……」
アグリはすぐに行ってしまう。が困ったように笑う。アラタと望もDVDを選んでいたので篭に集めて、数を数え直す。
十枚だったのでカウンターに出して借りる手続きをした。二千円札を出してDVDを十枚借りる。
「休日が終わるまでに見終わるかな……?」
「見るしかない……ハイドさん、アグリさん、私が来られなかったら来週、返しておいて」
「返しておこう」
「期限を守らないと厳しいみたいだしな」
「、俺は良いの?」
は来週も学校から出られるか解らない。毎週毎週言い分が通るとは限らないのだ。学校の方が疑いを持ってしまう。
DVDは期日までに返しておかないと延滞料金が取られてしまう。
借りるだけ借りると全部期限内に見られるかは怪しいところだが、見て行くしかないし、見られなかったとしても、
責任は取らない。
返すのはハイドとアグリに任せた。
「……アラタは他で頑張れば良いの!」
アラタには力強く言った。アラタは納得しているが、の言葉の意味を他の三人は気付いていた。
「任せられないよな。アラタには……スカイックには」
「ああ。期限を守らなさそうだ」
「だよね」
は三人の言葉を聞いていないが、アラタはとてもおおらかであり前向きであるのだが、様々なところが大雑把であり、
任せられないところがある。DVDはが持つ。
階段を下りて、モネとエリと合流した。
「最初はないから見るの?」
「韓国ドラマ!」
「カンフー!」
「帰ったらじゃんけんで決めようよ」
望の質問に答えたエリとモネは意見をぶつけた。アラタが仲裁に入る。少し離れたところをとハイドとアグリが歩く。
「夕飯の準備は……」
「家に着いたらすぐに準備するから」
「に抜け目はないよな」
DVDのことで頭がいっぱいであるエリやモネにハイドは苦言を零したが、が予想していたかのように微笑む。
アグリが荷物を持ち直した。
休日はまだ、始まったばかりである。
【Fin】
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