デリカテッセン

        
「アカーシャ、シッポウシティはまだ着かないのか?」

「……少し行ったら街があるから、その街を通り過ぎたら、すぐよ」

イッシュ地方のとある道にて、ポケモンマスターを目指しているサトシは隣を歩いて居る少女、
アカーシャにシッポウシティについて聞いた。
シッポウシティにはポケモンジムがある。サトシはイッシュリーグに出場するために必要なジムバッジを
集めている最中だ。イッシュ地方にあるジムを回り、八つのジムバッジを集めればイッシュリーグには出られる。
サトシはサンヨウシティのサンヨウジムでトライバッジを得ているため、残り行かなければ行けないジムは七つだ。

「すぐか……速く通り過ぎようぜ!!」

「その前に街で食料を補充したりしないと、速く行きたいのは分かるけどさ」

「サトシはせっかちね。急がなくてもジムは逃げたりしないわよ」

『キバ』

急いでいるサトシに苦笑したのはサンヨウジムのジムリーダーの一人であり、ポケモンソムリエでもあるデントだ。
サトシとポケモンバトルをして彼に興味を持ち、一流のポケモンソムリエになるために旅に同行している。
両手を腰に当ててサトシを咎めたのは褐色の肌の少女、アイリスだ。
アイリスの髪の中から、キバポケモンのキバゴが出てくる。アイリスはキバゴを最終進化形のあごオノポケモン、
オノノクスに進化させるために旅をしていた。キバゴを最終進化させることはアイリスが一人前になるための試験でも
あるらしい。
アカーシャはカノコタウンでサトシと出会い、サトシに興味を持って旅に同行していた。
首を覆い隠している短い赤毛をアカーシャは手で掻き上げた。

「ジムリーダーは本業……副業? が忙しい時もあるから、予約するのが一番だけどね」

「予約か……行ったときにすれば良いよな! シッポウシティのジムリーダーってどんな人だろう」

(アロエさんはノーマルタイプのエキスパートで、博物館館長で、一児の母よ)

口に出して言わないが、アカーシャはシッポウシティについても、シッポウジムジムリーダーについても知っていた。
言うときになれば言えばいいと言うことでサトシには話していない。
アカーシャは一人旅をしていた頃にアロエと対決してジムバッジを得ていた。

『ピカ』

「ピカチュウ、頑張ろうな」

サトシの肩に乗っているピカチュウに向かってサトシは言う。ピカチュウはイッシュ地方では珍しいポケモンだ。

「……街にはポケモンバトルクラブもあったはずだから、前哨戦とかしてみれば?」

「そうする!!」

ポケモンバトルクラブはイッシュ地方各地にあるポケモンバトルをするための施設だ。自分のレベルにあったトレーナーと
対決が出来る。バトルクラブのマネージャーであるドン・ジョージは一族でマネージャーをしていて各地にそっくりさんがいる。
話ながら一時間ほど歩いて、街に着いた。アカーシャは前に一度だけこの街に来たことがある。
ポケモンバトルクラブに行きたそうにしているサトシをアイリスが止めて、まずはポケモンセンターで一度ポケモンを
休ませることにした。宿の手配もしておく。
ヒヤリングポケモン、タブンネを助手にしたジョーイさんが応対してくれた。
ジョーイも一族でポケモンセンターのナース兼医者をしているらしく、各地にそっくりさんがいる。
ポケモン達が回復する間、革張りのベンチで休むことにした。

「ポケモンバトルクラブか……キバゴも戦わせてみようかな?」

「やってみたら? キバゴも段々と慣れてきたみたいだし」

「アカーシャはバトルクラブでポケモンバトルしないのか?」

「……気分が乗ればやるけど……今日は乗り気じゃないわ……あ……」

アカーシャはポケモンバトルはサトシが頼めば気分が乗っているときはしてくれるが、乗っている方が少ない。
話ながらアカーシャは背負っていたリュックサックを降ろして中身を確認していた。

「どうしたの?」

「レターセットがもう無いわ。ポケモンの回復が終わったら買い物してこようかしら……」

アイリスが聞いてきた。
メールや電話があるのに、アカーシャは手紙を好んでいた。
街に着くたびに手紙を書いては切手を貼っては養父や養父の会社の人達に送っている。すぐに言うことがあればPC電話に
すればいいし、今はゆったりを楽しんでいた。



ポケモン達が回復したという放送が入り、ポケモンを引き取ってから、アカーシャはデントにサトシをアイリスを
任せると買い物に出かけた。覚えている間に買い物はしておくというのが言い分だったが、ポケモンバトルクラブには
行きたくなかったのだ。バトルを吹っ掛けられたくはないのだ。
本屋でレターセットや筆記用具を選び、雑誌を手に取る。雑誌の表紙はカミツレだった。
荷物になるので買うべきか辞めるべきか悩んだが、買っておくことにした。付録に鞄が付いていたからである。
店を出てから、次に行く店を選ぼうとすると、アカーシャの目にある店が映った。

「デリカテッセン……前に来たときは世話になったけど……」

デリカテッセンはサンドウィッチや西洋風の持ち帰りの総菜を売っている店だ。
中に入ると、ショーケースの中には様々なサラダやサンドウィッチなどが置いてある。パック詰めのマカロニサラダを
手に取った。

(義父さん、ご飯はちゃんと食べてるかな……)

養父のことが浮かんだ。
会社の社長であり、アカーシャを引き取って育ててくれた養父は、ポケモンジムリーダーでもある。
このまま順調にいけばサトシも対決しそうではあるが、まだ遠い話だ。

「……アカーシャ?」

「な……って、デントじゃない」

懐かしい気分になっていると肩を叩かれた。叫びたい気持ちを堪えて振り向くと、デントが居た。
パック詰めのマカロニサラダが驚きで握りつぶされていた。

「探してたんだよ。そうしたら店を見つけて……参考に覗こうとしたら、君が居たから……食べたかったのかい?」

四人旅をするようになってからは食事は全てデントが作ってくれるので不自由はない。デントがいない頃は
アイリスが取ってきた木の実をそのまま食べたり、それに加えて栄養補助食品を取っていたぐらいだった。

「デントの料理が不満じゃなくて、故郷にいた頃はこういう店、利用してたから、義父さん、料理苦手だったし……私も
簡単なものしか作られないから」

養父であるヤーコンは忙しい人だった。故郷であるホドモエシティにはホドモエマーケットという巨大マーケットが
あったし、デリカテッセンの店もあったので忙しいときはそこで買って食べていた。

「アカーシャの故郷はホドモエシティだったよね。シッポウよりも更に先にある……」

「そうよ。サトシのペースで行けば、まだまだ先……あの二人は?」

「相手を見つけてポケモンバトルをしているよ。君のことには、気がつかないと想う」

サトシとアイリスについて聞くと、ポケモンバトルハウスでポケモンバトルをしているようだ。
デントが言っているのはアカーシャの実力についてである。調べれば出てくるがアカーシャは実力者だ。
イッシュリーグを優勝し、イッシュ・チャンピオンリーグに出たぐらいの。
その彼女は今は再び旅をしているという細かい事情はデントにもまだ話していないが、少しだけは話している。
旅をしているときに、朝一番早く起きるのはアカーシャで二番目がデントだ。早く起きた二人は先のことや予定を話し合っている。

「いつかばれるんだけどね……」

「マカロニサラダ、好きなの?」

「好きね。ポテトサラダはそんなに好きじゃなかったけど……」

ポテトサラダは冷たかったし、味付けが好みではなかった。アカーシャが好き嫌いは昔は、養父に拾われる前は
出来なかったので何でも食べるようにはしていたが、嫌いなものはあった。

「でも、君、イシズマイをゲットする前は食べていたよね……」

「デントのは美味しかったのよ」

「それなら、今度はアカーシャが好きなマカロニサラダを作るよ」

笑顔でデントが言うのでアカーシャは視線を逸らせ、自分が握りつぶしたマカロニサラダを見て、店員の視線に気づく。
二十代ぐらいのエプロンを着けた女性店員はマカロニサラダが握りつぶされていることよりも、
デントとアカーシャの雰囲気が嫌になっているらしい。ここで打つ手は一つ。

「……買い物しましょうか……」

無理やりアカーシャは話題をきった。
店での買い物はこんなものが食べたいとか、これが好きとか話しつつ、マカロニサラダを含めた食料品を購入する。
明日、街を旅立つ前に必要な雑貨を買うことにして、食料品の袋を持ち、ポケモンバトルクラブに戻る。

「買い込んじゃったよね。色々と……」

「シッポウシティに着くまでに持てばいいわ」

マカロニサラダはポケモンセンターで食べることにした。ポケモンセンターでは別に食料を持ち込んで食べても良い。
バトルクラブに戻ると、アイリスが待っていた。

「アカーシャ、デント!」

『キバ!』

「どうだった? キバゴのバトルは」

「前よりは慣れてきたかな……って」

アイリスとキバゴは揃って笑顔を見せている。アカーシャも微笑んだ。そこにサトシがピカチュウを肩に載せて
やってきた。

「サトシの方は……」

「勝ったぜ! この調子でシッポウジムのジムリーダーも倒せそうだ」

(……調子に乗りすぎなければ良いけど)

デントがサトシに問う。サトシはガッツポーズをしながら答えた。ポケモンバトルクラブのバトルを進めたのはアカーシャだが、
サトシはポケモンバトルには波があり、波が上手く合えば相手に勝てるのだが、合わなければ負ける。
そう言ってしまえばどんなポケモントレーナーでも同じなのだが、サトシはとりわけ、その波が大きいのだ。
アカーシャがサトシに興味を持った理由の一つでもある。

「なあ、アカーシャ。勝負してくれよ」

「……良いわよ……その前にポケモンを回復して来なさい」

「待っててくれよ!」

「僕も手伝うよ」

気分の浮き沈みはあったが、今の気分はいい。サトシのポケモン回復はデントも手伝いに行っていた。

「アカーシャ、デントとデートして機嫌良くなった?」

「アイリス……私はデートなんてしてないから」

デートについては否定しておいた。
デントとはアイリスとサトシの保護者として立場が同じようなものであると感じていてそれ以上のことはないのだ。
今のところは。


【Fin】

チラーミィの話からシッポウまでの話と言うか、アカーシャは手持ち出してませんがチラーミィとかグレイシアとかベストウイッスのデントが好きです

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