054 子馬
「お兄ちゃん、どんなポケモンが居たらいいのかな?」
クロガネシティのポケモンセンターのロビーでラズライトはお兄ちゃんと呼んでいるターコイズに聴いた。
お兄ちゃんと呼んでいるが、血縁関係で言うならばターコイズはラズライトの叔父になる。
十歳ほどしか離れていないのでラズライトはターコイズをお兄ちゃんと呼んでいた。彼女には双子の兄のジェイドが居るが、
そちらの方はジェイドと名で呼んでいる。
ポケモントレーナーとして出発したばかりの彼女はベテランである彼に聴いた。
「どんなって……用途に寄るだろう。ラズラ、お前の今の手持ちは」
「ナエちゃんにケーちゃん」
「……ナエトルとケーシィだけなら少ない方だな。実質上、一匹しかいないようなもんだし」
確認のために聴かれてラズライトは答えた。ナエちゃんはラズライトが始めて貰ったポケモンで、わかばポケモンのナエトルだ。
そろそろ進化しそうである。ケーちゃんはねんりきポケモンのケーシィだ。ケーシィは進化させて、ユンゲラーにしないと
戦闘には耐えられない。ラズライトはバッジを一つ持っているが、今回のジムがいわタイプだったために相性で有利さが働いて
取れたようなものだ。
「私としてはコンテストに出られば良いけど、何があるか解らないって……教わったもの」
ポケモンコンテストはポケモンの美しさを競うコンテストで、ラズライトの母親でありターコイズの姉であるマイカが
得意としていたものだ。ラズライトは母親に憧れてコンテストマスターになろうとしている。
コンテスト用のポケモンは極端なことを言えば美しければいい。が、そうもいかない。旅には何が起きるのか不明だ。
現にクロガネシティで旅の連れが事件に巻き込まれて入院中である。退院出来るらしいが大事を取って入院させていた。
「パーティはバランスを取った方が良いし、草むらに行くか。ボールはあるな」
「あるある。お兄ちゃんは手持ち変えないの?」
「今のパーティで十分だ」
ボールはモンスターボールのことでポケモンを取るためには必須のアイテムだ。
草むらがある207ばんどうろに移動する。クロガネシティ近辺で野生のポケモンが出るのはこことクロガネ炭坑ぐらいだ。
炭坑に行かなかったのは、いわ系のポケモンは可愛くないとラズライトが言ったためである。
「ナエちゃんも鍛えて進化させるの。ジェイドのヒコザルはもう進化してるのに」
「進化のスピードってのはバラバラだ。ポケモンによって違うから焦らなくても……条件付きもたまにいるし」
ジェイドのこざるポケモン、ヒコザルは進化してやんちゃポケモン、モウカザルになった。
ポケモンの進化というのはあるポケモンが全く別のポケモンになってしまうことであり、未だに謎が多い。
ナナカマド博士はポケモンの九割が進化に関わっているという説を発表していたが、そのナナカマド博士も進化については
まだまだ研究中だ。
ラズライトが草むらに入り、歩き回っていると前のポケモンが現れた。
「このポケモン……ポニータ?」
ポニータはラズライトも知っている。ひのうまポケモンのポニータがラズライトの前に現れた。
ポケモンずかんを広げてみるが、ポニータと認識している。しかし、ポニータの炎は朱いはずなのに目の前にいるポニータは青い。
生まれたてなのか、震えている。傷はないが弱っているようだ。
「色違いか」
ターコイズが色違いと言ったので、ラズライトは聞いた話を想い出す。色違いというのはそのままの意味であり、
通常の個体と色が違うポケモンだ。珍しがられることが多い。
「ナエちゃん、加減……」
ラズライトはナエちゃんに言おうとしたのだがきちんと言えない。ナエちゃんは攻撃をせずにラズライトを見上げる。
ポニータは怯えたままだ。弱々しい。
ターコイズはズボンのポケットから上半分がピンク色のモンスターボールを出した。
「ヒールボールだ。運が良ければこれで捕獲出来る上に回復も出来る」
「投げてみる」
ヒールボールはモンスターボールの一種であり、値段は基本のモンスターボールよりは高いのだが、捕獲したポケモンは
ポケモンセンターに行かなくても回復している。一刻も早く回復させるべきだとターコイズは渡した。
ラズライトがヒールボールを投げると、ポニータにヒールボールが当たる。開閉スイッチが開いてポニータが入る。
ボールは地面に落ちて何度か揺れてからスイッチが止まる。捕獲出来たのだ。
ヒールボールを拾い上げたラズライトはポケモンずかんで確かめる。ポニータはオスのようだった。
「無事に捕獲出来たか」
「名前はポニくん。育ててみる」
「徐々に慣らしていけよ」
「一回、帰るね。お兄ちゃん。あの子に捕獲したポケモン見せたいから」
ラズライトはポニくんを捕獲したのでひとまず目的を達成し、ターコイズと共に連れの少女が居る病院へと向かう。
彼女の方がポケモンに詳しいため、見て貰うことにしたのだ。
クロガネシティにある病院の個室に入ると彼女が居た。
事件で仲間になったはもんポケモンのリオルであるテファラとペンギンポケモンのポッチャマであるテツヤが
床で遊んでいる。彼女はクロガネシティのジムリーダー、ヒョウタと話していた。
「ターコイズさんとラズラちゃん」
「コイツの見舞いか」
「彼女はクロガネ炭坑の恩人だからね。……それと抜け出すらしいから見張っててとか看護士さんに言われて」
「……逃げるぞ。コイツ」
ヒョウタが二人に話しかける。
ベッドで上半身だけを起こしている少女の正体をターコイズは知っているが言っていない。病室を抜け出す癖は
ホウエン地方の時から変わっていない。ラズライトはヒールボールを見せた。
「色違いのポニータ、ポニくんをゲットしたんだ」
広めの個室であることを良いことにラズライトはヒールボールを投げてポニくんを出す。
「青いんだね。色違いのロコンなら見たことがあるけど」
ポニくんと名付けたポニータは怯えていた。ヒールボールで傷は癒えたが、まだ慣れていないのか、せわしなく視線を
動かしている。彼女は色違いのポニータを見たことがないらしく珍しそうにしている。
色違いのロコンは彼女が最初に旅をしていた頃に使っていたポケモンだ。今はキュウコンに進化している。
「捕獲したばかりみたいだね。一度、ボールに戻した方がいい」
ヒョウタのアドバイスにラズライトはポニくんをボールに戻すとボールベルトにセットした。
「どうやったら懐くんだろ……ナエちゃんもケーくんもすぐに懐いてくれたのに」
「……ケーくんは……アレ、懐いたって言うか寝てばっかりじゃないのか」
「確か荷物に……」
ナエトルは初心者用のポケモンなので扱いやすいようになっている。ケーシィの場合は一日の殆どを寝て過ごしているため、
ラズライトに懐いているかどうかは不明だ。アディシアはベッドの側にある自分のリュックサックをたぐり寄せた。
中をあさり、銀色の鈴を取り出す。
「鈴?」
「ぎんいろのすず、ポケモンが安らぐ音色が出るとかで……貸すよ。ポニータに着けると良い」
鈴が軽い音を立ててラズライトの手の上に乗る。
「これをつけて置いておく……?」
「出してコミュニケーションを取るのが一番だね」
「ありがと。終わったら外で特訓してくる」
ポケモンはモンスターボールに入れておく寄りも出して連れて歩いた方が懐きやすい。ラズライトはポニくんを
懐かせるための特訓をするらしい。
「ターゴ。ラズラのことよろしく」
「お前は寝てろよ、回復しないことには次に行けないんだ」
「次は……何処だっけ」
「ハクタイシティだ。コトブキ経由で行って、ソノオタウンを通る」
ターコイズとしては言われなくてもラズライトの面倒は見ているが、彼女もラズライトのことが心配なのだろう。
見た目は軽傷のようでいて念のためにと入院期間を延ばしていた。
「ソノオタウンは花の街でね。風力発電も有名なんだよ。ハクタイシティは近くに森もある」
「自然が多いところだね。シンオウ」
「ヨスガとかトバリは趣が違うけどな」
「またお見舞いに来るからー」
ヒョウタがソノオタウンとハクタイシティについて簡単な情報を教える。彼女の印象はシンオウ地方は自然が多い場所と
されているようだが、子供の頃から住んでいたターコイズにとっては段々と自然がなくなっている印象があるし、
テンガン山を越えたところにあるトバリシティやヨスガシティはコトブキシティ並み、あるいはそれ以上の都会だ。
ラズライトが病室を出て行く。ターコイズも後を追う。
「退院するまでにはポニータは懐くだろう」
「懐かせてみせる。コンテストにも出すんだ」
「ゆっくり叶えていけ。マイカ姉さんもまず懐かせてから始めていた」
ポケモンバトルもコンテストも人間だけでは出来ない。主役はポケモンたちなのだ。
病院から出るとラズライトはポニくんを出して、彼女から借りたやすらぎのすずを持たせた。懐かないからと言って
焦ってはいけない。この辺りは人間とも共通しているかも知れない。
「まずはポニくんでクロガネシティを駆け回れるように頑張るの」
「……馬具って売ってるのか。クロガネシティで」
「乗るのはまだ無理そうだから……ゆっくり散歩しようか。一緒に成長しようね」
ラズライトはポニくんに手を伸ばす。不安そうにしていたがポニくんはラズライトの手を舐めた。
少しだけポニくんはラズライトに懐き始めていた。
【Fin】
クロガネシティのイベントの間の話みたいに書きました。ラズライトのポケモンはコンテスト中心に見えてちゃんと戦えるようにも
してあります。ラズライトが十歳ぐらいとしてターコイズが大体23さいぐらいです
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