006 ポラロイドカメラ

       
聖ルドルフ学院の生徒会は発足して五年のはずだ。
何故ならルドルフが開校したのは五年前だからである。その割りに……と不二裕太は目の前の惨状を見た。
生徒会室にはいくつもの段ボールが出ている。まだまだ出てくるようだった。
引っ越ししたばかりの部屋と似ていた。

「先代も先々代もなんでここまで物が残せるのかな」

副会長の大瀧歌織が生徒会室にある小部屋から段ボールを引っ張り出していた。
この部屋は別名、物置と言われている。
小部屋のドアの前にはタペストリーがかけてあり、よく見なければそこに扉があるという事すら解らない。
扉の向こうにあるのは物置だ。生徒会室からではないと物置は行けないようになっている。
歌織が段ボールを適当なところに置いたので裕太は段ボールを別の場所に移動させた。

「アウトレットの店でも開けるんじゃないのか?」

「貰ってって良いんだよな。使えそうなものがあったら」

「……こっちが良いいって言ったものならね」

書記である村神時人とテニス部部長である赤澤吉朗も手伝っている。
小部屋の整頓を提案した生徒会長である観月はじめはまだ来ていない。裕太は整頓に巻き込まれたのだ。
歌織に勧誘されたのである。赤澤も同じだったが、赤澤は歌織と村神の幼なじみであり、頼みは聞いてしまっていた。
生徒会メンバーが滅多に揃わないのは有名な話であり、雑務などはテニス部がたまにやっている。

「観月はバザーで売らないかとか言っていたが」

「あげてからでも良いでしょ」

「他の面子も後で来るぜ」

村神が観月の提案を伝える。歌織はまず物をあげてから、売るものを売っていらないものは捨てることにしていた。
生徒会は三代しか居ない。初代は三年間生徒会を勤め、二代目は一年だけだ。

「歌織。一時的に止めろ。出た箱を開けてみる……吉朗、裕太、箱を開けるのを手伝ってくれ」

生徒会室はそれなりに広いが小部屋の段ボールを全て持って行ったりは出来ない。箱の中身を開けないといけないからだ。
村上の指示で赤澤と裕太は側にあった適当な段ボールを開けてみる。

「……カレーだ。レトルトカレーが大量に入ってるぞ」

「何ッスか、それ……本当だ……こっちは、ジャンプとかマガジンとか……」

赤澤が開けた箱には目一杯のレトルトカレーが入っている。色々なメーカーのレトルトカレーが味も様々に入っていた。
信じられない裕太だったが中身を覗き込んで信じざるを得なくなる。裕太が開けた箱には二年ほど前の週刊誌が入っていた。
ジャンプやマガジンがぎっしりと箱に入っている。

「……やるぞ?」

「カレーは貰うぜ」

目を輝かせている赤澤に村神が言うとすぐに赤澤はレトルトカレーの箱をキープした。中のレトルトカレーの賞味期限が
裕太は気になったのだが、赤澤なら関係なく食べられそうである。

「ジャンプとマガジンは捨てた方がいいんじゃ」

「未練が出る前に捨てましょ。こっちの箱は……機械ばっかり。どれも使えないけど」

裕太が段ボール箱を地面に置いた。歌織は生徒会室のテーブルの上に箱を置いて開ける。中にはケーブルなど使えそうで、
使えないものが入っていたが、その中から歌織が箱からあるものを出す。

「ポラロイドカメラか。フィルムもある……コレはレンズ?」

「トイカメラとも言うけどね」

テーブルの上に乗ったのはポラロイドカメラだった。大きめの白いカメラと掌サイズの青色のカメラの二つが出てくる。
赤澤が白色のカメラを手に取った。
フィルムは二袋あり、いくつかのレンズも出てきた。ポラロイドカメラはインスタントカメラとも言い、撮影すればすぐに
写真が見られるものだ。

「……これってまだ販売してたんですね……」

「警察の鑑識は未だにポラロイドカメラを使って居るぞ。デジカメは改変の恐れがある」

裕太としてはポラロイドカメラはすぐに写真が見られるが今はデジタルカメラがある。
ポラロイドカメラは廃れたように想われるが、警察の鑑識はポラロイドカメラを使っていた。デジタルカメラだと
画像はデーターとされるために改変出来るためアナログが好まれると言うことを村神が教えてくれた。

「アニキもカメラ好きだったな。鞄にカメラを持ってたし」

「お前のアニキがカメラ……脅迫の写真とか取ってそうだよな……」

「……俺もちょっと想ったんで。赤澤部長……申し訳なさそうな顔をしなくても」

裕太のアニキと言えば有名だ。不二周助、青春学園の三年生であり天才の異名を持つ。裕太にしてみれば兄はコンプレックスの
原因で余り好きではない。不二はカメラが趣味だった。
赤澤の感想に裕太は頷いてしまっていた。兄は何を考えているのか不明である。

「不二周助がカメラ趣味ならそれあげるよ。どっちも」

「……どっちもって。大瀧先輩」

「他にもありそうな気がしないでもないんだよね……」

「じゃあこのトイカメラ貰います……アニキ、こっちの方が好きそうだし」

小部屋は五年ほどしか使っていないはずなのに何をどうやったらそこまで物がたまるのか、歌織も村神も赤澤も
解らないらしい。裕太だってそうだ。歌織がカメラはあげると言っていたのでトイカメラの方を選択した。

「裕太は近いうちに帰るのか」

「父さんが帰ってくるとかで母さんが帰ってこいって」

「家族は大事にしてあげなさいよ。出来る範囲で良いから」

赤澤が聴いてきた。今度の土日に裕太は帰る。裕太の父親は国際線のパイロットであるために余り家に帰れないが、
今度帰ってくるようだ。家族が揃うときを母親は望んでいるらしい。
無理をしない程度にと歌織が暗に言っていたので裕太は頷く。裕太は歌織の家族について知っていた。
五年ほど前に歌織は両親と兄を交通事故でなくして、身内が居ない状態である。
一度に大事な人を亡くした経験を裕太は持たないが持ちたくはないものでもあった。
辛く、泣けないぐらいに哀しいことであると言う事が想像出来るからだ。



「ただいま」

「おかえりなさい。裕太」

土曜日になり裕太は家に帰った。出迎えたのは母親である淑子だ。エプロンを着けている。
不二姉弟の髪の色は母親譲りである。にこやかな表情をした穏やかな人で実年齢通りに見られず、若く見られる。

「兄貴や姉貴とか父さんは」

「まだ帰ってないわ。ゆっくり待って……」

「ただいま。母さん……裕太!」

そこにタイミング良く不二が帰ってきた。

「……帰ってこいって母さんが言ったから帰ってきたんだよ……アニキ。これやる」

やるなら早めにやってしまえと裕太は鞄からパッチワークで出来た巾着袋を出した。渡す。
不二が中身をいくつか出していた。

「これ、カメラ……?」

「……やる。生徒会の人たちに押しつけられたんだけどな。アニキ、カメラが趣味だろ」

巾着袋はおまけだ。入れる袋が居るだろうと部屋を探してあったものをくれたのだ。中に入れたのはトイカメラと
フィルムと説明書だ。箱の中身をあさり、探した。

「裕太……ありがとう……」

「生徒会室の整頓で出てきた使わないもんの一つだけどな」

「良いんだよ。ねえ、裕太、母さん、写真を撮ろうか。外で撮ろうよ。これフラッシュがついてないから」

説明書を読まなくても不二にはカメラにはフラッシュがついていないことが解ったらしい。
フラッシュがないと晴れた日などではないと写真は上手く撮れない。

「それなら周助。裕太、二人で写真を撮りましょうよ。わたしが撮るから」

不二も淑子も乗り気だった。裕太は仕方が無く外に出る。ここで断っても、二人は強引に誘ってくるだろう。
家の前で不二と裕太は並んだ。母親がトイカメラを持っている。

「この辺で良いだろ」

渋々裕太が立つ。不二はいつもの目を閉じている笑顔のような状態だ。母親は笑顔でカメラを持っている。
裕太だけが無愛想だ。

「二人とも、笑って笑って」

「裕太、笑ってよ」

兄と母親に促されて、裕太はぎこちなく抱けど笑った。不二は裕太の肩に手をかけてピースサインをしている。
母親がシャッターを押した。すぐにもう一度押す。
写真がトイカメラから出てきた。淑子が見せる。

「大切にしてね」

「大事に持っているよ。裕太はもう一枚の方、大事にしてね」

「……大事にっていわれても」

淑子から裕太は写真を受け取る。写真なんて寮に持って行ったら先輩達にからかわれそうだ。

「このカメラ、面白いカメラだね。探求の余地がありそうだ。みんなが揃ったら僕が撮影するよ。自分のカメラでね」

不二はトイカメラに興味を持ったようだ。アナログで素朴なところがブームになっていると歌織が教えてくれたことを
裕太は思い出す。トイカメラで撮影したことをきっかけに不二はこれからまた写真を撮ろうとしているようだ。
淑子からやらカメラを受け取ると大事そうに巾着に入れる。

「そんなに撮るなよ……」

「撮りたいんだ」

カメラを貰ったのがよっぽど嬉しかったのだろう。機嫌が良さそうな不二に裕太は少し引きながらもカメラをあげて
良かったと感じていた。デジタルカメラやカメラもどんどん進歩しているがたまには立ち戻ってアナログも良い。
そう感じられるような写真が裕太の手には握られていた。


【Fin】

生徒会はカオスです。幼なじみ三人とか出してみたり村神と赤澤と歌織は仲良しです。
裕太は書いていると楽しいキャラだったり

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