077 欠けた左手
「スクアーロさんの左手って……義手なんだよね」
スペルビ・スクアーロが沢田香奈からこう言われたのは、沢田家で食器洗いをしているときだった。
隣に居る少女はイタリアのマフィア、ボンゴレファミリーの十代目候補……の双子の妹だ。
候補は双子の兄である沢田綱吉である。
スクアーロはボンゴレファミリー独立暗殺部隊ヴァリアーに所属しているのだが、ボスであるXANXUSが
香奈のことが好きだとかで沢田家に入り浸るようになった。沢田家にはスクアーロの義妹のような存在であるアディシアも
居候をして居る。スクアーロも着いていき、沢田家の家事を手伝っていた。
「ああ。義手だぞぉ」
食器を丁寧に布巾でスクアーロは拭いた。丁寧に戻していく。人数が多い沢田家では食器洗いやご飯作りは重労働だ。
みんなのお母さんである沢田奈々は嬉々としてしているが、奈々でなければ楽しんで出来ないだろう。
布巾を持っているスクアーロの左手は義手である。
「本物の手みたい」
「ボンゴレの技術部が作った優秀な義手だ」
「剣帝さんとの戦いで自分から切り落としたとか」
「そうだぜぇ。そうしねえと、剣帝を理解出来なかったからなァ」
剣帝、とはヴァリアーの先代ボスであるテュールのことだ。八年ほど前、スクアーロはティールに勧誘されたのだが、
ヴァリアーの入隊条件としてヴァリアーのボスであったテュールとの戦いを望み、三日三晩戦い勝利した。
スクアーロはその時、隻腕のテュールを理解するために左手を切り落としたという。
「……そのためにあっさりと落とせるなんて……」
「ばからしく見えるか?」
「いいえ。凄いって。剣に命を賭けてるってのが良く分かるなって」
香奈は首を横に振り、スクアーロを見上げる。
スクアーロとの身長差は二十センチ以上はあり、香奈はスクアーロを見上げなければ視線が合わせられない。
真っ直ぐに香奈は言う。
「凄く何てねえよ」
「私は剣とか握れないから……アディ見たく強くなれないし」
「アイツは小さい頃から訓練をしてきた……させられたってのが正しいけどな」
アディことアディシアは沢田兄妹の護衛でありヴァリアーの一員だ。明るく振る舞っていたり、笑っていたりしているが、
中身は暗殺者だ。加減をせずに本気で闘えば強い。
スクアーロはアディシアの過去を知っている。彼女は赤ん坊の頃に家族を亡くしてからは暗殺者養成組織に拾われて、
訓練を叩き込まれた。そんなアディシアを拾ったのはスクアーロである。
「小さい頃からやらないと強くなれないとか」
「そうでもねえ。死ぬ気の炎もプラスされているがお前のアニキとか強いだろ。気持ちだと想うぜ」
綱吉が駄目ツナと言うあだ名をつけられていたのは有名なことだし香奈が一番よく知っているが、家庭教師のリボーンを
着けられてからは成長して、今では死ぬ気弾や小言弾の援護もあるが綱吉は強くなっていた。
ボスであるXANXUSに勝っている。
「……気持ち……」
(妹の場合は違う意味で気持ちが強いだろうけどなァ)
スクアーロは香奈を見下ろす。
一緒に生活をしてきて解るが、香奈は心が強い。例えるならば自分が人質に取られたときに平然と自分の命を絶てるような、
自分の命を賭けの対象に出来る。
大切なものがあるからこそ、命を賭けられる。そんな人間は厄介であることをスクアーロは知っている。
香奈はリビングにある掛け時計を見た。
「そろそろ、洗濯物を取り込まないと……お母さん、XANXUSさんと買い物だし」
「お前の母親凄いよなァ。ボスに買い物をさせるなんて……洗濯物を取り込むのは手伝うぞ」
XANXUSは今、家にいない。香奈の母親である奈々が買い出しにXANXUSを連れていったからだ。
荷物持ちをお願い出来る?と奈々は笑顔で言ってきた。邪気のない太陽のような笑顔だ。これにはXANXUSも参ったらしく、
買い物に着いていった。
「ツナの分とかはお願いします。女性陣は私が……」
香奈としては洗濯物は自分の分などは香奈で取り込みたいらしい。スクアーロはそのことを聴いて、解ったと言う風に頷く。
乙女心というものである。
洗濯物をたたみ終えて分けてそれぞれのたんすに押し込んで香奈は自室に戻る。
「……今日、好きなライトノベルの発売日だ……買いに行こう」
壁掛けのマトリョーシカカレンダーを見て香奈は欲しかったライトノベルの発売日であることを想い出す。
手提げ鞄の中に財布や携帯電話を入れると、香奈は外に出た。
行きつけの本屋に習うって居るはずだと香奈は行こうしたのだが、香奈の勘に予感が引っかかった。
そのまま香奈は後方に一歩下がると自分が立っていたところに弾丸がめり込んだ。
「銃……リボーン……?じゃ……」
音が聞こえない。
香奈が言いかけたときに立て続けに狙撃が起きる。香奈の勘は四発発射されたと言っているが身体が動かない。
目を閉じるが痛くはない。
「妹。このまま伏せて急いで家に入れええ!!」
「スクアーロさん」
「速くしろお!!」
香奈の位置が移動していた。
前にいたのはスクアーロで、彼が香奈の前に手を出して銃弾を一発受け止めていた。残りの弾丸は全て、地面に撃たれている。
スクアーロが庇ってくれたらしい。香奈は急いで戻る。
弾丸の来た方向からスクアーロは何処に狙撃手が居るのかを判断して剣を持って走る。
狙撃手はそんなに離れていない場所から香奈を狙撃していた。離れていないとは言え八百メートルぐらいの距離だった。
スクアーロは屋根を飛び移ると、マンションの一室の窓を蹴り破る。そこに狙撃手が居るはずだ。
割れたガラスが飛び散る。
「ボンゴレファミリー独立暗殺部隊ヴァリアーのスペルビ・スクアーロ……雇い主も逃げさせてくれたら良かったんだがな」
狙撃手は逃げていなかった。
スクアーロを待っていたらしい。律儀に使っていたライフルを鞄にしまい、遠くに鞄を滑らせている。
グレージュの髪と同じ色の目を持っていた。年齢は十代後半から二十代ぐらいだ。
「どこの野郎だあ!」
「雇い主は沢田綱吉かXANXUSか沢田香奈なら誰でも良かったみたいなんだけど、沢田綱吉の側には黄色が居て、
XANXUSの側には藍色が居たんだ。超直感を持つ相手を兵器の実験台にしたくて……」
黄色と藍色というのは誰を差しているのかスクアーロは解らないが、剣で狙撃手を斬りつける。狙撃手はサバイバルナイフで
受け止めた。
「狙撃よりこっちの方が上手いじゃねえか」
「観測手向きなんだ」
スクアーロは攻め手を緩めることはない。狙撃手は移動しながらスクアーロが蹴り破った窓のガラスを踏みつけた。
近距離で居たスクアーロだが、ガラスが全てナイフに変化し、ナイフスクアーロを襲ってきたので回避に入る。
その間に電撃で目くらましされた。
「待ちやがれ!」
「緑色から黄色と藍色に、また実験に来るから楽しみにって……次回はメインの兵器で襲うからー」
狙撃手は飛び降りてから逃走する。
どう回収したのかライフルもなくなっていた。スクアーロは追おうとしたが、人の気配を感じる。マンションの住人だろう。
スクアーロも素早くマンションを後にした。
沢田家に帰る。
「ただいま帰っ……」
「カスが!犯人は追えたのか!?」
帰ってきた途端にXANXUSが蹴りを放ってきた。蹴りでスクアーロは吹き飛ばされる。
どうにか家へと入った。
「スクアーロさん、怪我は……左手とか」
「無いから心配するな。左手は義手だあ!」
香奈がスクアーロの方に来て不安そうにしていた。スクアーロは怪我一つしていない。香奈を庇ったときに左手に
銃弾を受けたが、わざとだ。
「アロ。狙撃手……誰だったの?」
「しらねえ。顔だ……帰ってたのか。アディ」
「ねーちゃんが欲しがってたライトノベルもちゃんと買ってきたんだよ」
義妹のような存在であるアディシアを迎える。アディシアは帰りに香奈の欲しがっていたライトノベルを買ってきた。
家に帰ると香奈が震えていて話を聞くと狙撃手に狙撃をされたらしい。そこにXANXUSや奈々、ベルフェゴールや
マーモンも帰ってきていた。ベルフェゴールは奈々を誤魔化している。
「マーモン!狙撃手の情報はあるだけ教えるから居場所を」
「やるよ。スクアーロ。……情報量は安くしておくよ。……妹君のピンチだし、ボスにも言われてるからね」
フードを被った赤ん坊、マーモンにスクアーロは叫んだ。
マーモンは粘写が使えた。粘写はトイレットペーパーに見えるマモンペーパーで鼻水を噛むことで標的の場所を教える。
今追わなかったのはスクアーロが交戦中だったからだ。マーモンはリビングの方から出てきた。
香奈がマーモンを抱き上げる。
「ありがとう。マーモンちゃん……超直感で地図とかあって狙撃手がこれだ、とか出来たら」
「妹君。気に病まないで」
「沢田綱吉が帰ってきたら知らせるか……香奈。危ないならボディガードは俺が……」
「……アディが居るだろうが」
アディシアはその目的で沢田家にいた。
「手とかごめんなさい」
「義手だし、本当に気にするんじゃねえ」
香奈の頭をスクアーロは右手で触れる。昔、アディシアにもこうしていた。すぐさま、スクアーロにXANXUSのパンチが飛ぶ。
スクアーロは壁にぶつかり、倒れた。
【Fin】
狙撃手キャラが固まってない……一発限りではないはずなんだけど愛称は決まっていても名前が決まってません
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