Ende der Traumerei4
「眠そうね」
床が赤いビロードで覆われた真っ暗な部屋には、階段上になっているところがあり、頂上では玉座に座り、
眠そうにしている少女がいた。少女は金色の髪を細い三つ編みにして、青い眼をしている。
神官のような服を着ていた。見た目は十代前半だ。
話しかけたのはリアだ。
目が半分だけ開いている少女は、リアの声を聞いて目を一度だけ閉じて開けた。
ハッキリ開けたつもりであるらしいが、眠たそうである。
「彼女の世界に呼ばれたのよ」
解答が返ってこないが、リアは気にせずに彼女に話す。
「――せかいか」
「食べてみたい?」
少女の声が聞こえた。
リア以外の者が聞けば、声に違和感を持つだろう。
少女の声は年頃の少女の声であるようで、得体の知れない『何か』が喋っているような声でもあった。
笑いながら聞く黒髪の女性を玉座の少女は半目で見下ろした。
「すきにしろ」
「好きにするわ」
噛み合ってない会話ではあるが、二人はこれで十分だ。少女は椅子の肘掛けに両手を置くと目を閉じた。
リアは軽く右足で赤い絨毯を踏む。
自室としている部屋に戻った。アンティーク家具が置かれている部屋で彼女はアンティークの揺り椅子に座る。
一日目が終わりそうだ。残りは六日間。
アディシアに最終的な判断は委ねるにしろ、災難に対する準備はしておくべきである。
自分一人で出来ることだが『不死英雄』達に仕事を渡したのは、リアとしては活動を控えておくべきだ。
平穏に、終わりたいのならば――。
二日目、アディシアは居室の部屋で軽い運動をしていた。
服などは届けて貰ったので問題は無い。ラスリア・ユーグが発作で倒れている状態だが、客人として不自由が
無いようにしてあげてと命令が来たらしく、服などは揃えられたし、食事も貰えた。
食事でも取ろうかと、アディシアが部屋を出て食堂の方へ向かおうとすると、イェオリ・エンスクレスと出会った。
「おはよう。これから仕事?」
「上からの命令で、お前を案内してやれと。幻想世界で行きたいところはあるか?」
幻想世界というのは天界、冥界、有幻界を纏めてそう言うようだ。幻想世界とイェオリは口にしたが、
幻想というのは、幻のことだ。自分達を幻の世界の住民だと言っているようなものではある。
「……幻想世界とか口にすると創作世界のヒトみたいなのはあるよね」
「そのことは、創造神に言え」
不機嫌そうに言うイェオリだが、自分の側に自分の世界を作った創造神が居れば、そんな口調にもなるだろうとアディシアは想う。
アディシアは話題を変えた。
「ラスリアさんは」
「復活するまでは数日ぐらいの時間がかかる」
「食堂で食事してからこれからのことは考える。式神作ってみるのはどう? とか言われてた」
ぐらいとイェオリが曖昧に表現しているのはばらつきがあるからだ。
ラスリアは昨日、発作を起こして倒れた。神としての力に器が耐えきれなくなり、発作を起こした。
まだ復帰はしていない。
アディシアはイェオリと共に食堂へと行き、朝食を取った。食堂にはペルソナ3の荒垣真次郎が居た。
ペルソナ3はRPGの一つだ。ペルソナ3も沢田家でしていて知っているが、
荒垣は物理攻撃系だったので使いづらかったらしく、沢田香奈も綱吉も、パーティから除外していた。
バイキング形式の食事を取って食べつつ、式神でも作ってみようかとアディシアは考える。
『作るの? 私や下僕や執事が居るじゃない』
(お前は含めるにしろ、ゼレさんやサマエルのだし、サマエルは式神じゃないよ)
下僕はサマエルのことで、執事はゼレフェストのことだ。サマエルはアディシアの相棒とも言える青年で、
普段は白猫だがたまに人間の姿になる。ゼレフェストはある世界で出会った悪魔で、今はサマエルの元にいる。
リアがゼレフェストを執事と呼んでいるのはこき使うときは執事のようにこき使うからだ。
『私は貴方の従者なのね』
(関係は対等というかたまにお前が上というか揺らぐが)
「今日はどうする。俺も警備部の仕事の一貫でお前と行動するが」
「式神を作ってみたい」
「魔術部か」
すぐに回答が返ってくる。アディシアは食事が終わったら魔術部へ行くことにした。
「自分が知っている物語のキャラクターと逢うと言うのは芸能人と会う関係と似ているかも知れないね。
プロフィールや趣味など、こちらはデーターで知っていて、今の場合は場合によっては末路まで知っているが、
向こうは知らない」
本の塔で、コウ・シリングは立ったままで透明操作鍵盤を叩き続けていた。
同じく立った状態で話しかけているのは側に居るアルビノの女性と紫髪の少女だ。
ロゼとヨアである。
本の塔では帯のように文字列が踊っていて、布状になったり、その布が生き物のように動いていた。
アディシアの心中をコウは察している。感情を読み取ることも可能だがしなくても分かる。
セイクレドという組織が、様々な世界から人々が集っていて、その殆どが、アディシアの世界で言う
ゲームや漫画のキャラクターなのだ。
会話をするにも困る。
「宿主は荒垣が好きな方であったみたい。あのゲーム、みんな中身が暗いけど」
「ゲーム中では死ぬキャラクターですからね。バージョンによっては植物状態らしいですが」
ペルソナ3をアディシアがしていたことは知っている。3はパーティメンバーが各々に暗い過去を持っていたり、
心に疵を持っている。荒垣はパーティメンバーの中では途中で死ぬが、組織としてのセイクレドでは
食堂に勤務をしていた。
本体に言われたことを三人は実行している。礼拝堂に残っているのはオルトとヴェンツェルだけであり、
ルイスイとエルジュは体を動かしに別の場所にいる。
ロゼが飛んで来た赤い紋様の書いてある長方形の布きれに右手を触れさせる。
布きれはハンカチ程度の大きさになった。
「創造神の行動履歴の一つか」
「全員が揃ったときに見ましょう」
「……作業が、すんだら……」
コウとロゼが作業を分担していてヨアはその補佐だ。
「関係性で重要なのは、相手のことを知っているとは言え、行動は考えなければなりません。
知らなくてもそうですが」
高速でやらずに適度なスピードでしているのは、データーが個人的な理由で重いのがある。
ロゼの声をコウは聞きながら手指を動かし続けていた。
人付き合いというのは、相手のことやその時の状況を視野に入れて、動かなければ行けない。
そこに利権も絡むことがあるが、考えなければいけないというのは同じだ。
「創造神が話せるようになるまで二日か三日ぐらいはかかる」
「世界と世界を繋ぐ空間から力を引っ張っているみたいだけど……」
「あらゆる可能性があるならば、世界と世界の繋ぐ空間に力があると言うこともあるでしょう」
ラスリアは自身の力が溢れすぎていて、体を壊している。彼女は不老不死で不死身のようなものだ。
コウは透明操作鍵盤のボタンを一つだけ押して、理術で作成したプログラム通りに作業を自動化した。
「データーを軽く見ているけど、僕は彼女、破綻していると想うよ」
そう言った後でコウは伸びをした。ロゼもヨアも答えない。ただ、己の作業を続けていた。
アディシアとイェオリが行ったのは魔術部の、その中でも研究室の一つだ。
魔術部はセイクレドの中で新しい魔術を開発したり、既存の魔術を研究したり、他世界の術を見たり、魔法石の管理を
している。魔法石とはその名の通り、魔法がこもっている石だ。
魔術部の道は憶えていた。部屋の前に着きそうになったときにイェオリはそちらよりもこちらだと研究室へアディシアを
連れていった。
「居るんだろう。入るぞ」
イェオリがドアを無造作にノックしてから、ノブを捻る。
アディシアが後ろから覗き込むが、研究室には紙の束が積み上がっていた。
足の踏み場がないぐらいに本が置かれている。
こぶし大の大きさの石もいくつか置いてあったり、魔術の道具らしいものもある。部屋の中には一人の女性が居た。
「イェオリ」
部屋を片付けようとしていたらしい女性は外見は十代後半から二十代前半ほどであり、黒髪の長髪をしていて額を出し、
眼鏡をかけていた。セイクレドのコートではなく、スカートとブラウスを着ている。
コートはコート掛けにかかっていた。
「ウリカ。ラスリア様が喚んだ客だ。アディシアだと」
「こんにちは。始めまして。ウリカ・イルツです。何処のヒト?」
「地球のイタリア出身で、今は日本に住んでる」
ウリカとアディシアは昨日には逢っていない。出身を聞かれたアディシアはウリカに教えた。
「地球出身か。蓬莱寺の二人とかもそうだったかな」
「お前、コイツに式神の作り方とか教えてやってくれ」
「良いよ。出して置く研究は出しちゃっているし、魔術解析の方もすんでるし」
(何人もと言うと荒垣さんとかか)
地球は太陽系の第三惑星であり太陽系の中では確か唯一人類が住める星のはずだ。地球をベースにしている話なんて、
それこそいくらでもある。ウリカはどうにかアディシアとイェオリが居られるスペースを作る。
「図書委員会に怒られるぞ」
「それ、写本だから」
「二人は友達?」
「そうなるな。コイツとは家が近所で、同じ種族なんだよ」
「年齢は少し離れてるけどね。十歳か十五歳ぐらい」
イェオリもウリカも見た目は若い。
幻想界出身だとイェオリは言っていた。付け足すように彼が説明をしたが、幻想界の出身者は戦闘に適した年齢で
肉体がこれ以上衰えないように外見の年齢が十代から二十代で止まってしまうらしかった。
魔力が高ければ高いほど、衰えなくなると言う。年齢で衰えないだけで、筋肉などは鍛え続けなければ
衰えてしまうようだが、それはアディシアと同じだ。
種族的に言うと二人は長寿族になると言う。分かりやすく言うとエルフのようなものであり、
弓を主につかうわけではなく、剣も使えるようだ。
「魔術部は魔術の研究をしているところで魔術で戦う所じゃないんだね」
「そうだね。戦うのは警備部やら傭兵部隊の役割だし、……式神だけどセイクレド式の式神の作り方は、
強い力を持った核に形を与えて名を与えれば出来るよ」
ウリカは大きい長方形のテーブルと三人分の椅子を空ける。アディシアが左がの椅子に座り、
イェオリはアディシアの隣に座る。正面にウリカが座る。セイクレド式とウリカが言ったのは他の式神もあるからだ。
「強い力を持った核か」
「魔法や魔術が出来る人が核とかに力を込めれば良いんだけど、魔術とか出来る?」
「出来ない」
相方のサマエルならば使えるがアディシアは魔術の類が使えない。
石に力を込めるとウリカは言うが、アディシアが想像をしたのは石を握って割ってしまうような物理的なイメージだ。
「ラスリア様が作る予定だったらしいがあの人は倒れたから、お前がそれをやってくれ」
「あの人ぐらいの出力は出せないよ」
「創造神と比べるな。八龍と相互契約してたりしてるのはあの人とアリス様ぐらいだ」
幻想世界の根幹を司っている八龍とは契約も出来るようだが、出来ているのはセイクレドを率いているサクヤである
アリスと創造神であるラスリアぐらいのようだ。
『石に力を込めるぐらいなら出来るようにしてあげる。この世界限定よ』
リアの声が脳内に響く。アディシアが魔術を使えないのは、彼女は暗殺者であり、魔術なんて誰からも
習わなかったのと戦闘スタイルに組み込めないからだ。
「力を込めるぐらいなら……出来るかも。やってみたい」
「それなら媒体になるモノは……」
アディシアの言葉を聞いてウリカがいくつかの鉱石を並べだした。鉱石が磨かれているものもあれば、
そのままのものもある。十個程並べられ、それ以上並べようとしたウリカをイェオリが止めた。
「地球の鉱石だろうな」
「合わせてある。核は草木とか魔力そのままでもいいんだけど、鉱石の方が纏まりやすいよ」
鉱石は地球に存在しているものらしいが、どれがどれなのかは不明だ。式神を作る方法は分かっても、どんな式神を
作るかは決めていない。
「式神作るとは言ったけど、どんなのにしようかな。ラスリアさんの式神ってどんなの?」
参考までに聞いてみるとイェオリが返した。
「四神を元に作られている。青龍、朱雀、白虎、玄武だな」
「青龍の蒼、朱雀の朱天、玄武の玄翁、白虎の白だね。使い魔だと雄飛とかいるけど。他にもいくつか作っていたけれど、
人に渡したりとかしてた。式神はモチーフによっては聖獣時の姿とかあるよ」
四神というと北の玄武、東の青龍、南の朱雀、西の白虎という有名なモチーフだ。漫画やゲームでも題材にされやすい。
ライドウの世界でも、四神は存在していた。元は中国神話からである。中央に黄龍だったはずだ。
(黄龍とか、背中に乗って飛び回ってたな……)
『まずは平凡なモチーフにしておきなさい』
(平凡……平凡……)
考えながらアディシアはリアの言葉を参考に平凡なイメージを考えてみるが、アディシアは平凡とは特徴がないことだ。
黄龍のような目立つ存在はまずは避けろと言うのをリアが言うのも分かる。
アディシアのイメージで黄龍とは背中に乗るものだ。ライドウが仲間にして移動に使っていた。
その時の状況を漫画日本昔話のようね、とリアが呟いていた。
「動物とかでも良い。猫やら犬やら」
「それなら決まった」
イェオリの言葉でアディシアはイメージが固まる。適当に石を一つ取る。
「その石に力を込めて、呪文は――」
左手で石を握り混むと自分の中の力を注ぎ込むように集中した。ウリカが教えてくれた通りに呪文を唱えると、
石が光り出す。光り続けた石はアディシアの手を離れて浮き上がり、アディシアとイェオリの後ろに漂う。
二人が振り向いた。
石は最初はカラフルなステンドグラスのような羽根を持つ小さな蝶になってから、黒髪の少女となった。
外見はアディシアと同じ、十代前半で茶色の入った黒髪を背中辺りまで伸ばして長袖のワンピースを着ている。
足下はローファーを履き、白いハイソックスを履いていた。
「名前は、チコ、でよろしく」
「チコの名前はチコですかぁ。始めまして。マスター」
マスター、と呼ばれアディシアは複雑そうな表情を浮かべた。マスターと呼ばれるほど偉くはない。
「出来たみたいだね。式神は主と一蓮托生で、主が死んだら式神も死ぬし」
ウリカの声を聞きながらアディシアはチコと視線を合わせた。
自分よりも微妙に背の低い彼女は外見年齢だけで判断をすれば自分と同じぐらいだが実在年齢はまだゼロだ。
「これから、チコと外に出歩くか、図書館で本を読んでみるか。本にしよう」
「あそこは一日居ても飽きないからね」
「すぐにでも本が増えるからだろ。俺は着いていかないと駄目だがお前は?」
「うちも行く。言われてることもないしね」
イェオリは任務で、ウリカはヒマだから着いてきてくれるらしい。アディシアは案内はして貰ったとは言え、
この神殿にはまだ不慣れである。慣れている者が案内してくれるのは助かる。
「ゆっくり、やろうかな」
チコのこともある。
こういうときにサマエルが居たらチコの面倒も共に見てくれそうだが、彼は元の世界に居るため頼れない。
チコについて知るためにまずは何かの行動をしてみようと図書館につれて行くことにした。
【続く】
最後のオチだけ描いてないで放置気味だったのだが今頃描いておく。しかし更新ペースは落ちる感じ。
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